「第49回救急隊員学術研究会」 当本部救急救命士がシンポジストとして参加しました。

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「東日本大震災発生時の救急搬送状況について」
芳賀地区広域行政事務組合消防本部 秋山敏志

今回、未曾有の大震災において被災した1消防本部として、限られた資器材人員で行った救急活動について報告します。
 当消防本部の構成市町村は1市4町であり、管内面積563平方キロメートル、管内人口約14万8千人の安全、安心確保のために、1本部1署6分署、職員201名体制で日夜消防業務に励んでいます。管内に7隊の救急隊を配置し、昨年は5,903件の救急出場に対応しました。
 今回の震災により管内では人的被害として、勤務先の工場の天井崩落による下敷きとなった男性の死者1名、負傷者43名、物的被害全壊家屋64棟、半壊家屋447棟、一部損壊22,238棟という大きな被害を受けました。
 地震発生直後より119番通報が多数入電、当日中だけでも140件もの緊急通報を受信しました。覚知別災害受信状況を調べてみると、携帯電話からの入電が7割を占めました。
 救急隊の活動状況ですが、当管内の1日平均救急出場件数は15.2件となっています。震災当日は発災後から26件の出動、翌12日には救急出動はピークに達し43件の出動がありました。翌13日以降は次第に減少傾向となり平常時と同程度の件数となっています。
 救急要請内容の多くは急病であり、次いで一般負傷、転院搬送、そして地震を直接起因とした自然災害となっています。搬送にあたっては管内にある7隊の救急隊に加え予備救急隊1隊を編成し、ときにはピストン搬送という状況で続発する救急要請に全力で対応しました。
 このような中で、地震発生から1週間、事故種別および年齢別で考察すると「急病」「高齢者」の搬送件数が突出していることがわかりました。これに加え管内では地震発生直後から心肺停止傷病者が多く発生しました。地震に直接起因しないCPA(震災関連CPA)が、地震発生後から1週間、全年齢層において11件発生しています。当管内の過去のCPA発生件数は月に10件程度ですから、短期間に集中して発生しているのがわかります。発生の背景には震災の影響で持病が悪化、新たな疾病の発症、精神的不安定、被災したことによるストレス、震災を目の当たりにしたことによるショックなどが主な原因と推測されます。平成7年に発生した阪神淡路大震災における死者の1割が震災関連死であったとの報告もあります。
 これらのCPA症例の中からから、震災という特殊な状況下においての特異的な活動、また他隊との連携について症例を提示しながら考察していきます。

【症例1】特定行為指示要請時、一時的に通話圏外となり指示に時間を要した症例。

 「81歳女性が呼吸苦を訴えている」との通報で出動。現着時CPA状態のため早期車内収容。搬送中のリズムチェック時モニターPEAを確認したためオンラインMCで薬剤投与指示要請を受けようとするも、災害優先電話として登録されている救急隊車載電話が圏外表示となり通話不能となった。搬送中繰り返し通話を試みるも圏外表示は変わらず、結果的に指示を受けるまで5分を要してしまった。

【考察】救急隊使用の電話は災害優先電話として登録されていた。平常時通話可能エリアを走行していた。指示医師の持つ院内PHSは、その当時通話されていなかったことを後に確認している。これらのことから、災害時に圏外表示となり、スムーズな活動ができなくなる恐れがあることを十分に認識しておくことが重要である。また指示要請できない場合の対処法についても構築しておく必要がある。

【症例2】震災により、消防署に自主待機していた医師とともに出動した症例。

 「82歳女性が歩行中に卒倒した」との通報。「意識、呼吸共に感じられない」との通報内容から重症と判断。出動準備中、地震発生直後より自主的に消防署に待機していた1次医療機関の医師にこの内容を報告すると、自ら同乗して出動することを快諾。救急隊3名と医師1名の4名で出動する。
 現着時傷病者はCPA状態。収容先医療機関が至近であったため特定行為は実施しなかったが、医師に処置、判断についての助言を受けながら搬送した。

 【考察】医師が同乗した場合、救急隊積載資器材を用いた医師の処置が可能である。また特定行為を実施する場合、リアルタイムで指示や助言を受けることが可能である。しかしながら臨場医師が地域の救急活動プロトコールに必ずしも精通しているとは限らないため、地域MCの指示医師にも同時に指示、助言を受けながら活動することが重要である。

【症例3】消防隊、ドクターヘリと連携し、フライトドクターの処置により自発呼吸、心拍が再開した症例。

 「84歳男性、呼吸苦を訴えたあと反応が低下した」との通報。管轄の救急隊が別件出動中であったため管轄消防隊が先着、酸素投与等の応急処置を実施。
 救急隊現着時、高度意識障害、ショック状態のためドクターヘリを要請。ランデブーポイントであるヘリポートに到着し、フライトドクターが傷病者と接触、同時刻にCPAを確認。ヘリ機内では有効なCPRができないため、ドクターが救急車に同乗し陸路で直近3次医療機関に搬送する活動方針が決定した。2次救命処置を受けながら搬送中、傷病者にわずかな体動が出現。観察結果心拍、自発呼吸が再開したのを確認できたため胸骨圧迫を中止、人工呼吸のみを継続して医療機関へ収容となった。

【考察】震災後の混乱した状況下で消防隊、救急隊、ドクターヘリが比較的スムーズに連携できた症例であった。また心肺停止直後の早期医療介入により気管挿管、緊急薬剤投与などの高度医療処置が可能であった。重症傷病者をヘリ搬送することにより、救急隊が早期に出動体制を確保でき、輻輳する救急要請に対応することが可能となる。

 今回、未曾有の大震災において、被災しながらも少ない人員で活動した1消防本部の、特に救急活動について考察しました。急増した救急事案に的確に対応するためには、医療機関をはじめ各関係機関とのつながりが必要不可欠でした。ライフラインの途絶や燃料不足など、かつて経験したことのない状況下での災害対応を余儀なくされた中で、初動から比較的スムーズな活動が実施できた半面、各関係機関との情報、通信手段の確保、単隊で出場する各小隊の安全確保など多くの課題を残しました。

 消防職員はいつ、どのような状況下においても冷静な対応、適切な判断が求められています。それは今回の震災時も同様です。そのためには常に大きな災害が起こりうるという心構えと、それに対応した大規模訓練を行い、今回残された課題について携わった者1人1人が再認識することが重要であると考えます。

発表時の資料
東日本大震災発生時の救急搬送状況(PDF:348 KB)